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70歳以上の機関誌「銀杏」
特別インタビュー  
     
 
 邦楽長唄篇 「勧進帳」と「元禄花見踊」
 
龍田 武二(78歳)
     
 『旅の衣は鈴懸の』で始まる勧進帳は、長唄を代表する名曲で、九郎判官義経と、弁慶を始めとする家来達の安宅の関での挿話を題材とした舞踊劇の伴奏曲である。
 去る天保十一年(一八四〇年)四世杵屋六三郎の作曲によるもので、今もなお上演頻度の極めて高い人気曲である。
 義経が兄頼朝の討手から逃れんとして弁慶ら数人の家来と共に山伏に扮して奥州へと落ちのびてゆく途中、安宅の関で見咎められかかるが、弁慶の機転と、関守富樫の温情により、辛うじて関を越えることが出来るというものである。勧進帳とは寺院建立のため寄付を募る趣意書のことで、身分を確かめるため、勧進帳を読めと迫られた弁慶が、咄嗟にありあわせの巻物を開いて悠然と読み上げる場面が一つの大きな山場になっている。
 演奏は通常、唄及び三味線が六人から八人位でこれに能管という笛が一人、小鼓二、三人、大鼓(おおかわ)一人、太鼓(たいこ)一人といった編成である。
 思い出としては唄の杵屋六左衛門、芳村伊十郎、芳村五郎治といった歴代の名手、及び杵屋勝東治、今藤長十郎、山田抄太郎等三味線の名手がこの勧進帳に度々出演された時の格調高い名人芸に深く感動したことである。
 後半の酒宴の余興に弁慶が舞う「延年の舞」と「滝流し」は明治になって三世杵屋正治郎によって作られた。華やかで緊迫感も充分である。舞踊なしで長唄だけの演奏では、台詞の部分が省略されるが、それはそれで又変化に富んだ曲の面白さを十分に楽しめると思う。
四世 尾上松録「弁慶」
 勧進帳の緊迫感とは打って変って華やかで明るい雰囲気の曲に「元禄花見踊」がある。
 この曲は、映画の時代劇等で、江戸大奥の絢爛たる雰囲気を醸し出すような場面でよく使われてきたので、誰でも一度位は耳にされたことがあるだろうと思う。
 明治十一年(一八七八年)新富座が新築され、その開場式の余興として作られたのがこの曲で、勧進帳の後半を作った三世杵屋正治郎の作曲による。
 内容は、元禄時代の、上野の花見の風情が楽しく描写されており、当時の人々の風俗、着物の細かい部分にまでおしゃれを気取った模様をはじめとして泰平そのものののどかな様子が滲み出ていて、曲全体が賑やかさと明るさで貫かれている。
 三味線その他鳴り物の伴奏もさることながら、唄い手の一人として、名手芳村伊十郎の張りのある声色が私にとっては甚だ印象深い。

 

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