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70歳以上の機関誌「銀杏」
歌舞伎十二ヶ月(七月〜九月)
     
 
  
 
 
志摩 淳一(八三才)
 
 
 

 七月は伊勢音頭、本外題は「伊勢音頭恋寝刃」といいます。寛政八年七月、大阪角の芝居に書き下ろされ、作者は近松徳三、実説を脚色した狂言です。人気が高く、現在まで夏芝居としてしばしば上演されています。主人公福岡貢は二枚目役者により演じられ、戦前には十五世羽左衛門、二世実川延若など、戦後では十一世団十郎や十七世勘三郎、十三世仁左衛門、十四世勘弥等、現在では十五世仁左衛門が演じています。主役の貢のほか、各役者の衣装が夏衣装の見本市のように、貢は白絣の越後上布に黒の紗の羽織、お紺は紫の明石、万野は黒の明石、敵役の北六、岩次は貸し浴衣という風です。
 ストーリーは、名刀「青江下坂」とその折紙、つまり鑑定書の紛失を巡るお家騒動で、最後は、伊勢音頭の踊り子をバックに、十人切りが行われるといった派手な舞台です。
 八月は、文字通りに「夏祭」で、本外題は「夏祭浪花鑑」です。延享二年七月、竹本座で初演された浄瑠璃で、作者は並木千柳、三好松洛、竹田小出雲で、団七九郎兵衛、釣船三婦、一寸徳兵衛という大阪の侠客の達引を描いた芝居です。この三人の他に女役として、立女形の演じるお辰は黒の帷子を着て、日傘をさした女房の夏姿を美しく見せた後、魚を焼く鉄弓を自分で頬にあてて火傷をして醜くするなど、女の侠客というような役です。現在では雀右衛門や玉三郎などが演じています。主役の団七は、故勘三郎や幸四郎、吉右衛門、勘九郎などが演じています。この芝居の見せ場は、最後の義兵次殺しの場で、泥だらけになった義兵次と団七の立ち回りに、塀の向こうを高津祭りの山車が、賑やかな囃子と共に通るのが、陰惨な殺し場を引き立てます。義兵次を殺した団七が、井戸の本水で身体を洗い、神輿の群集に紛れての引っ込みは良い段取りになっています。
 九月は、月見の場面がある双蝶々曲輪日記の八幡の里・引窓の場です。この双蝶々曲輪日記は、この場だけ上演されることも多く、一番人気のある場です。時によっては、序幕の角力場と大詰の引窓とを上演することもありますが、それ以外の場は現在では殆ど上演されません。序幕の角力場は横綱級の濡髪と新進の放駒との試合で、濡髪が情実により負けた場面で、放駒には若手の人気役者が扮し、濡髪は大幹部が扮しますが、私が観た昭和十九年二月の歌舞伎座では、放駒には七十才を過ぎた十五世羽左衛門が、放駒と濡髪ひいきの若旦那山崎与五郎との二役を演じ、濡髪には六世菊五郎が扮していました。歌舞伎座はこれを最後の公演として、戦争のために閉鎖されました。引窓の場は、仲秋の名月の前日の場で、嫁のお早が月見の供え物を出窓に運ぶシーンがあります。この場のストーリーは、罪を犯して別れに来た実子の濡髪を匿った母お幸が、義理の息子与兵衛との間で苦しむのを、それを察した与兵衛の情けある計らいで幕となる、心温まる一幕です。母親のお幸については、七世沢村宗十郎が最高でした。

 

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