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70歳以上の機関誌「銀杏」
若者の優しさ
     
 
  
 
 
島 健二(七九才)
 
 
 

 若者は時勢の変化に敏感で、古い過去や伝統を否定して新しいものを求め、高齢者は過激な変化を警戒して古い伝統やしきたりを守ろうとするのは古今、東西を問わない傾向かと思われます。ただし、若者が新しさを求める場合も、極端に走るのはごく一部の現象で、全体としては緩やかに取捨選択して、時代は推移すると云えましょう。高齢者達は「近頃の若い者は……」などと眉をひそめますが、突出した一部の振る舞いを見て全体を断じるのは適切でないと自戒すべきでしょう。
 先日、増田老人と連れ立って片岡嶋之亟丈が出演する国立小劇場へ行きました。楽屋をお訪ねして色々と苦心談を拝聴した時ですが、その折同席した同丈後援会の若い女性の方々のお行儀の良さ、我々老人に対するお心配りに感心して、とても嬉しく思いました。
 加えて、帰路いつものように、青山一丁目から大江戸線で練馬まで来た時のことですが、最近は体力的にすっかりだらしがなくなった両名、楽しかったこととは裏腹に、大分草臥れて少しでも早く帰宅したいので、比較的に混んでいる車両に乗りました。その車両はほぼ満席で空席は殆どない状態でした。日曜日の夕刻ということもあって、子連れや夫婦、または若者の友達同士と思われる人達が多く、最近の一般的な傾向としてゆったりと間隔を空けて席を取り、談笑している人達でした。私達が二人並んで腰掛ける空席がないので、一人分の空席を見つけて一人が腰掛け、一人は立つつもりでした。新宿駅あたりで空席が出来るだろうと考えて、席を譲っていただく期待はしていませんでした。
 この車両の人達はそれぞれ何人かのグループを形成していました。単独行動の場合は他者に対して配慮が働くが、グループ行動の時は自分達の都合にかまけて席を譲るなどという配慮が働き難いものです。ところが、予測に反して同時に二人の人達が立ち上がって席を譲ってくれました。若い夫婦連れの男性の方ともう一人は金髪、ピアスの若者です。私達は双方にお礼を言って掛けさせて頂きましたが、元々一人分の空席があったので、二人の方に立っていただく必要はなく、金髪の若者にはお礼を言って掛けていただきました。
これだけのことですが、人は見掛けで判断してはいけないこと、私達年寄りの理解の及ばない茶髪(金髪)にピアスの若者にも優しさがあると知ってとても嬉しかったのです。
 「どうぞお掛け下さい」でもなく、ヌーッと立ち上がっただけ、必要がないと知るとまた大股を広げて席を一人分半ほど取って友人と談笑していましたが、席を譲る優しい意思があったことは確かです。
 大袈裟に云うならば「まだまだ日本も大丈夫だ」と思いました。ジコチューがまかり通り、他人のことなどカンケイないという風潮のこの世の中を苦々しく思っていましたが、国立劇場での先の若い女性達にも、大江戸線での金髪の若者にも譲り合う心、老人をいたわる優しさがまだ残っています。

 

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