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70歳以上の機関誌「銀杏」
歌舞伎十二ヶ月(十月〜十二月)
     
 
  
 
 
志摩 淳一(八三才)
 
 
 

 十月は菊の季節です。菊の花の登場する舞台は、何と云っても「鬼一法眼三略巻」通称「菊畑」です。「今出川菊畑の場」と云うのが正式な名称です。舞台一面平舞台で、上手に屋根付きの門があり、正面には大輪の菊が、油紙の屋根の下に、色とりどりに植えられています。竹の床机に鬼三太が腰掛けて、髭を抜いています。他の下部たちが庭の掃除をしているところで幕が開きます。この「菊畑」は、五段続きの三段目で、単独でよく上演されます。初演は享保十六年に、竹本座で上演されたもので、作者は文耕堂、長谷川千四の合作です。登場人物は鬼一、鬼次郎、鬼三太、湛海、虎蔵、皆鶴姫、腰元、下部たちで、各役柄が揃っています。虎蔵は実は牛若丸で、十五世羽左衛門が虎蔵に扮した絵は、シルバーヴィラの花ちゃん食堂に飾られています。歌舞伎絵の画家で、後に女形になった異色の画家、役者名中村時枝の作品です。
 ストーリーは、平家方の鬼一が持っている虎の巻を、源氏方の鬼次郎、鬼三太が奪うためにこの屋敷に奉公していますが、実は鬼一、鬼次郎、鬼三太は兄弟なのです。虎蔵は牛若丸で、鬼一の娘皆鶴姫は虎蔵を慕っており、また平清盛の手下の湛海は、皆鶴姫を娶って鬼一の跡目を狙う魂胆なのです。そして最後は、鬼一が腹に刃を刺して自害し、皆鶴姫を虎蔵に添わせると云い、元の源氏に立ち返ります。
 十一月は紅葉の季節です。今月は、「新歌舞伎十八番」の「紅葉狩」に致しました。明治二十年十月・新富座の初演で、作者は河竹黙阿弥。義太夫、長唄、常磐津の三流掛合の大がかりな浄瑠璃です。振り付けは九世団十郎です。初演の配役は更科姫を団十郎、後に戸隠山の鬼女になります。平維茂を初世左団次が、山神を四世芝翫がつとめて素晴らしい評判になり、明治三十二年に再演されて、映画も撮影されました。この時の配役は維茂を五世菊五郎、山神を丑之助、後の六世菊五郎が演じました。幕切れに鬼女が松ノ木に上り、引張りの見得で、口から花火で火を吹いて見せましたが、今はしていません。私は一度見たことがあります。
 十二月は、年末の風景を見せる「廓文章」吉田屋にしました。原作は近松門左衛門で全盛を誇った夕霧太夫の死後三十五年経ってからの作です。そして夕霧の愛人、伊左衛門の役を、和事の名人坂田藤十郎は生涯に十八回も演じたとのことです。舞台の幕開きは吉田屋の店前で、若い者が餅つきをしている年末風景から始まります。伊左衛門は深編笠に紙衣姿での登場ですが、紙衣と云っても、勿論、紙ではなく反故染めのはぎあわせを表わした衣装です。初めは若い者から追い立てられますが、店の主人の出により、奥へ招じられて、夕霧の出まで、いろいろとありますが、主人夫婦のいたわりの場面は、しみじみとした場面だったのを、六世菊五郎が大幅にカットして、舞踊劇風にしてしまったのが現在も型として定着してしまったのは如何なものかと思います。もともと上方風の芝居なので、初世中村鴈治郎はじめ、現在の鴈治郎や仁左衛門などの舞台が良いと思います。

 

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