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70歳以上の機関誌「銀杏」
日本古来の文化  
 
 
  歌舞伎十二ヶ月新(十月〜十二月)
 
 
志摩 淳一(84歳)
 
     

 十月は「盛綱陣屋」を選びました。理由は舞台装置の中で重要な役をする一本の楓の木があるからです。この芝居の本名題は「近江源氏先陣館」と云います。この作は、明和六年十二月に竹本座で初演されたもので、作者は近松半二他の合作です。また時代を変えていますが、実は徳川時代の初期、豊臣と徳川の争いを描いています。九冊続きの八段目で、佐々木盛綱の息子の小三郎が、盛綱の弟高綱の息子の小四郎を生け捕ったことで、高綱の使者として和田兵衛が平服で訪ねて来て盛綱との会見でお互いに智謀を傾けあう場面です。和田が帰った後盛綱が、色々と考えた上で、小四郎を切腹させるように母の微妙に頼み、母は孫の小四郎に切腹させることを引き受けますが、この母の役は三婆のひとつで、一番難しい役になっております。
 ストーリーは進んで北条時政の前で、盛綱が高綱の偽首を本物として時政に返答するまでの苦衷を表情一つで見せる場面で、十五世羽左衛門は五分以上、一幕に二時間くらいかけていました。平成十五年十一月に歌舞伎座で吉右衛門が演じた時には、一時間四十分でした。さて楓の木が重要な役をすると云ったのは、小四郎の母が小四郎を助けに来た時に、文を付けた矢を楓の木に弓で射て、その矢文が楓の幹に刺さり、それを見た盛綱の妻早瀬が返事を書いて門の外にある松ノ木に射返して、これもうまく刺さります。最後は盛綱が高綱の妻を門の中に入れ、小四郎の最後に立ち会わせ、自分は切腹して時政に詫びる覚悟を見せて、皆で小三郎を誉める場面で幕です。
 十一月は「本朝二十四孝」です。明和三年一月竹本座で初演されたもので、作者は近松半二他の合作です。武田信玄、長尾謙信両家の争いを題材とします。此処では「十種香」の場面を取り上げました。謙信の娘八重垣姫が、花作り師蓑作として入り込んだ武田勝頼を慕って、腰元濡衣に取り持ってくれと頼む場面から始まり、蓑作実は勝頼と寄り添っている所に、父の謙信が出て来て勝頼を塩尻に使者として立たせ、あとで追手に勝頼を殺させにやるので、八重垣姫は奥庭へ行き、諏訪法性の兜を手に取って危急を勝頼に告げようとすると、姫を守護する狐が現われる場面は、狐火の段と云い、追手は陸を行ったが諏訪湖は凍っているので、そこを行けば先回りできることになります。十一月ならば湖が凍っているとの解釈で十一月に選んだ次第です。この八重垣姫は、金閣寺の雪姫、鎌倉三代記の時姫との三姫の一人となっております。
 十二月は「新版歌祭文」野崎村を選びました。皆様ご存知のお染・久松のために、お光が尼になる場面で、父久作が梅の枝を折って「目出度い春を松竹梅と、お家も栄え蓬莱の・・・」と云いながら、その梅をお染の母のお常に手渡すところから年末と云うことが分かると思います。
 現在の演出で、お光が久作にすがって泣く場面で幕となるのは、六世菊五郎の演出を受け継いでいるものです。

 

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