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70歳以上の機関誌「銀杏」
日本古来の文化  
 
 
  邦楽 義太夫節篇 「曽根崎心中」と「野崎村」
 
 
龍田 武二(80歳)
 
     

 義太夫節は、竹本義太夫と近松門左衛門とによって基礎が固められた三味線音楽の浄瑠璃で、流麗な情趣的表現から動的で劇的な表現に至るまで大変豊かな表情を持っており約三百年の間上方浄瑠璃の代表芸術とみなされて来た。その音楽的特長としては人形芝居を彩る音楽として発達したために、語る言葉が明瞭に聞き取れるように様々な工夫がなされており、また大阪庶民の音楽として大阪弁を基本とし一方では言葉の伝達を越えた「情」の表現にも力を注ぎ、太夫の練磨した声で人間の情愛を深く語ることが求められている。
三味線は太棹を使い棹も胴も総て大ぶりで、皮や撥もぶ厚く駒も鉛を嵌め込んだ水牛角製の重い駒を用い、従って音量は大きく、迫力は充分で太夫の太く大きな声と良く調和している。

「曽根崎心中」 大阪内本町の醤油商平野屋久右兵衛の手代徳兵衛(久右兵衛の甥)が北新地天満屋の遊女お初と深い恋仲であったが、久右兵衛は女房の姪を徳兵衛の妻にしようとしていた。
一方徳兵衛は友人の九平次に頼まれて店の金を貸してやったところ、これは騙りで徳兵衛は生玉神社の境内で心外にも散々辱められる。その上お初の方も別の身請け話が決まってしまい、恋、縁談、金と義理に詰まった二人は曽根崎天神の森で心中するという筋である。この話は元禄十六年(一七〇三)四月に起きた事件で、これを基に浄瑠璃、歌舞伎脚本の作者であった近松門左衛門が書き下ろした際物で、その後竹本座で初演され大当たりをとったという近松世話浄瑠璃の処女作である。
これまでは時代物が主流であった浄瑠璃の世界に世話物という新分野を開いた記念すべき作品であり、多くの心中物の先駆けとなった。

「野崎村」 安永九年(一七八〇)大阪竹本座初演近松半二作「新版歌祭文」のうち「野崎村の段」で竹本組太夫の作曲による。
大阪の油屋に丁稚奉公に出された久松が集金の金をだまし取られ、野崎村に住む養父久作のもとに帰されるが、久作はかねてから夫婦にと考えていた許嫁お光との婚礼を思い立つ。
そこに油屋の娘お染が久松を慕って訪ねて来て恋の鞘当となる。
久作は二人に身分違いの恋をたしなめ、お染には山家屋への嫁入りをすすめる。
お光は、二人が心中の覚悟で愛し合っていると察し、髪を切って尼になる。
お染の母お常は世間の手前お染を舟、久松を駕籠と別れ別れにして大阪に連れ戻すという筋書きである。
江戸期の情死事件を脚色したドラマをたった一人の語り手(太夫)が様々な声の音色や技巧を使い分けながら、独特な響きを持つ義太夫三味線と共に演じ、歌い、語るというところが義太夫節の魅力である。

 

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