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70歳以上の機関誌「銀杏」
特別企画「若い世代に伝えたい一言」(第六回)
     
 
 子供の絵本に託した願い
 
 
田中治夫(85歳)
 
     

 私は、力のない、何もないものですが、第二次大戦後、食べるものにも事欠く焼け野原の中でも、元気な、明るい子供達になんとか健全な心をもって、日本のために生きる力をもってほしい。このために、子供の絵本をつくってあげたいという強い願いをもって、数人と少数ですが、興したポプラ社を通して、全国の書店を足を棒にして一店一店歩いてまわり、望まれる子供の絵本についての意見や要望を聞いてまわりました。
 書店で立ち読みしている子供に、どんな本に興味をもっているか、のぞいてみたり、子供の話を聞いてみたり、健全な心を育てることができる「子供の絵本を作りたい」の一念で生きてきたつもりです。
田中治夫様のお誕生会 左から澤さん、田中会長、後藤様、牧さん 本当に無力な商売下手な私ですが、幸い優れた方にめぐり逢う機会を得て、ポプラ社の子供の絵本は、全国の小学校、図書館で取り上げていただくようになり、子供が楽しそうに読んでいる姿をみると本当にうれしく思います。
 お陰様で、戦後少数でスタートしたポプラ社でしたが、現社長の坂井君をはじめ私の願いを理解して協力してくれた社員諸君の研鑽努力によって、今では、年間売上高百億を越え、社員百三十人を越える会社となり、児童書を出版する会社として、少しはお役に立つているのではないかと思い、本当にうれしく思っています。
 日本の子供達が、「健全な心」をもって明るく元気に成長してほしいと願って努力してきた理念は、時代と共に拡大発展して、混乱している日本に新風を吹き込むような本をもっともっと出版できたら幸いだと思います。
 今年の私の誕生日には、社長の坂井君をはじめ社員諸君から大きなバースデイケーキときれいな花と社員諸君の沢山の心温まる寄せ書きの色紙をいただき、大変うれしく思いました。この寄せ書きを一つ一つ読んで行くと、恥ずかしい気持ちになりますが、ポプラ社は、これからの難しい時代にいつも新風を吹き込んでいく会社として発展していくことを願っています。
 日本の将来を背負う日本の子供達を本当に大切にしてほしいと思います。
 日本の将来は、子供達とその子供達が大人になってつくる家庭が健全であることによって決まることの大切さを改めて認識して、大人が、社会が、真実「子供を大切に育てる国」になることを願ってやみません。

《参考》
本年3月18日(土)の朝日新聞朝刊に掲載されたポプラ社社長の坂井宏先様の田中治夫様についての記事をご紹介いたします。
この記事をご覧になった田中治夫様は、「坂井君(社長)は、誉めすぎだ。私はたいしたことはしていない。」と謙遜しておられましたが、この記事の一部を掲載させていただきます。

*転機*
━ 創業者が陰に陽に支持してくれた ━

………経営陣の中でただ一人、陰に陽に支持し続けたのが、創業者で前社長の田中治夫さんだ。
「田中は私の意図をよくわかってくれた。
私が経営陣を追求するときも、あの人だけはいつも正面から受け止めた。」
田中さんはめったに人をほめなかった。
坂井さんに対しても、人前で「君は大した仕事もしていないのに偉そうに言うんじゃない」と言い放つ。
だが、その田中さんが87年のある日、「本当によくやってくれた」とねぎらった。さすがの坂井さんも驚き、「かえって、自分は大した仕事をしていないのに」と恐縮してしまった。田中さんはつづけた。「いい仕事をしてきたが、今までのことは忘れろ。でないと新しい仕事はできない。」それが、長いヒラ社員生活の終わりだった。
「田中には本当にたくさんのことを教わりました。」坂井さんにとって、田中さんとの出会いが人生の転機だったことは間違いない。
一方、同族会社の弱点や、取引先との癒着という病巣を切り取るのに、坂井さんの手腕は不可欠だった。二人の出会いが、ポプラ社を児童書のヒットメーカーに押し上げた。

(2006.03.18 朝日新聞朝刊より)

 

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