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70歳以上の機関誌「銀杏」
私の人生は、いつも青信号  
 
 
  
 
 
大川 允子(のぶこ) 88歳 
 
     

大川様(於 T号館玄関) 私のことを、「何の苦労もなく生きてきた幸せな人」と言う人がいます。
 家庭も事業も順風満帆で来た人と見られるのでしょうか。
 実際には、私に限らず誰でも人知れない苦労をされているのではないかと思います。それでも私は、「人生は、いつも青信号」をモットーとして生きてきたことが、人には苦労知らずの人と思われているのかも知れません。
 私の父は家柄はいいと聞かされていましたが、決して裕福な家庭に育ったわけではありません。父の薦めで日本大学付属看護学校に入りましたが、私には向いていないと知り、自分で好きなことをしようと思っていたとき、父の友人の息子さんのところへお嫁に行くようにいわれました。警察官で堅い職業と思ったのだと思います。その上「お嫁にいかなければ親子の縁を切る」とまで言われました。当時は、父親の言うことには、逆らえない時代でしたので、私は、覚悟を決めて結婚しました。主人は大酒のみで、なかなかの人でしたが、警察官という仕事柄がよくないと思い、主人と事業を興すことにして、警察官をやめてもらい、当時成長が見込まれた自動車整備工場をつくり二人で一生懸命働きました。多いときには三十人近くの従業員をもつ会社にしましたので、主人は毎日大酒を飲んでご近所、知人の皆様にはご迷惑を少なからずかけていたのではないかと思いますが、それでも主人にとっては、警察官という責任ある役職の中で、いつも控えめにお酒を飲むよりは、毎日思う存分好きなだけ飲めたのは、楽しかったのではないかと思います。
 私は、初めて事業をしてみて事業の面白さを体験しました。事業が軌道に乗った頃、民謡の三味線に興味をもって習いはじめました。後年、津軽三味線に出会ったときの感動は忘れられません。「これが、私の求めている三味線だ!」と私は、心の中で叫びました。私は、津軽三味線の虜になり、当時三名人と言われた「木田林松栄」先生の指導を仰ぎました。
 私が言うのもなんですが、本当に津軽三味線に打ち込み、血のにじむようなお稽古をして、アメリカへ演奏旅行に行ったこともあります。
 津軽三味線は、日本が生み出した世界に誇る独特の魅力をもった芸術だと思います。
 津軽三味線の力強い、無限の広がりをもった魅力ある響きは、心の奥深くに響き、魂を揺さぶられます。
 私が津軽三味線に出会うことができたことは、私の人生にかけがえのない貴重な宝を与えてくれたように思います。
 津軽三味線の世界は、「私が求めてやまなかった世界ではないか」と思い、私は、この世に生を受けたことを心から感謝しています。
 しかし、 主人を亡くして、シルバーヴィラ向山に入居することを決めてからは、三味線は一切しないことにして、未練が残らないように、愛用の三味線は全て処分しました。
 私には。三人の娘がいますが、それぞれ独立心が強く、親孝行ですので、感謝しています。
 長女は、良縁に恵まれて幸せな結婚をしましたが、私に似て独立心が強く、「やりたいことがあるからどうしても離婚する」といって、私の説得も聞かず離婚してしまいました。私は、長女の主人に申し訳なくて「娘が勝手なので、一切心配しないで欲しい。」とお詫びしましたが、娘に充分すぎる程の財産を渡してくれて、娘の独立を助けてくれたばかりでなく、今日でも私のことを「お母さん、お母さん」と慕ってくれて、毎年二〜三回は食事や旅行につれていってくれます。
 シルバーヴィラ向山にお世話になってからは、三女が何かと面倒をみてくれて、何でも相談にのってくれますが、この娘の主人も国立の有名大学を出て一部上場会社の幹部を務めているのに、娘が私を世話するために家庭をあけても何一つ文句を言わずに娘のするままにしてくれていることを本当に有り難く、申し訳ないと思っていますが、感謝しています。
 二女もその主人と一緒に私をいつも温かく見守ってくれています。
 私は、思えば、やりたい放題やってきた感じがしますが、主人にも、娘にも、事業にも恵まれて来たことを思いますと、本当に幸せな道を歩んできたことを感謝しなければならないと思っています。
 何よりもシルバーヴィラ向山という私には、一番合ったホームに入れたことを感謝しています。
 娘の世話にならないで一人で生きることを決心していたつもりですが、気が付いてみれば、結局三人の娘にそれぞれお世話になっていることを思うと有り難いことだと改めて思うこの頃です。
 これからもよろしくお願いいたします。

                 (談)

 

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