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70歳以上の機関誌「銀杏」
認知症のはなし  
 
 
  
 
 
北里大学医学部名誉教授 柏木 登 
 
     

北里大学医学部教授として活動されておられた頃の柏木登様 このたび、シルバーヴィラ向山 V号館に入居されている北里大学医学部名誉教授の柏木 登様から認知症について、解りやすいおはなしをいただきました。お話は、次のとおりに2回に分けて本誌に掲載いたします。

  第一回
 T.認知症とは何か
 U.病名、病型と統計事項について
  第二回
 V.脳血管性認知症
 W.アルツハイマー病
  皆様のご参考になれば幸いです。

T.認知症とは、何か。
(1)認知症とは、いったんは正常に発達した知能が、大脳の後天的な器質的変性により低下した症状を示し、日常生活に何らかの支障をきたすような疾患をいう。認知症によって最も顕著に表れる知的能力の低下に記憶障害がある。
(2)一般に年をとると物忘れをするようになるが、実は、本人がそう思い込むだけであって、それ程記憶が低下しているのではないことが多い。記憶力や知能の低下を調べる検査法(例えば、「表@」にあげるような評価スケール)は、いろいろあるが、試しに自分でテストしてみても満点に近いのがほとんどである。
(3)しかし、老化に関連した脳組織に変性があって、それが強度の記憶力の低下を特徴としたものである場合に認知症と呼ばれる。「表A」は、老化にもなう物忘れと認知症による記憶障害を比較したものである。
(4)認知症の状態が進行すると記憶障害に加えて、他の随伴症状も表れてくることが多い。それには、(a)妄想や幻覚、せん妄等の意識障害、(b)鬱状態のような精神病症状、(c)徘徊や暴行等の問題行動、(d)急に泣き出したり、怒り出したりする情動失禁、(e)尿や便の排泄失禁や着脱衣不能のような日常生活の機能の低下、(f)もとはなかった失語、失行、失認などの高次脳機能傷害があげられる。失語とは発語器官に障害がないにもかかわらず、習得した言語表現の理解が困難な状態をいう。失行は運動麻痺や運動失調などの随意運動を行う上での支障がないにも拘わらず、指示された運動行為の実行が困難な状態をいう。失認は感覚系および精神機能の障害がないにもかかわらず、感覚による物体や空間の認知が困難な状態をいう。
U.病名、病型と統計事項について
(1)認知症は、5年ほど前まで痴呆と呼ばれてきた。しかし、痴呆という語は差別語のようなニュアンスを含んでいることから認知症と言い換えるように提唱された。
(2)認知症の病態には、脳血管性の認知症とアルツハイマー病の二大代表がある「表B」。前者は、脳卒中(脳梗塞あるいは脳内出血)に続いて起こる続発性疾患であるが、後者は、先行する疾患は特になく原発性のものである。
(3)男性には、全認知症のうちの脳血管性認知症が最も多く、54.6%をしめる「図@」。男性はアルコール常用の習慣が多く、血圧が上昇気味だからである。一方、女性にはアルツハイマー病がほぼ同率に出現する(38.7%対35.0%)。それは女性が長寿であることと関連するかもしれない。

1985年に行われた調査によるデータに基づき、年齢別に在宅の認知症高齢者の出現率を推定すると、
  65 〜 69才  1.1%
  70 〜 74才  2.7%
  75 〜 79才  5.2%
  80 〜 84才  11.0%
  85才以上    20.0%
である。
また、平成17年度の厚生労働白書によれば、2002年に150万人だった認知症高齢者は、2015年に250万人、2025年に323万人になると推定されており、将来は大幅な増加が予想される。


表@ 改定長谷川式簡易知能評価スケール
No.
質 問 内 容
配点
1.
お歳はいくつですか?
(2年までの誤差は正解)
0,1
2.
今日は何年の何月何日ですか?
何曜日ですか?
(年月日、曜日が正確でそれぞれ1点)

0,1(年)
0,1(月)
0,1(日)
0,1(曜日)

3.
私たちが今いるところはどこですか?
(自発的に出れば3点、5秒おいて、家ですか、病院ですか、施設ですか? の中から正しい選択をすれば1点)
0,1,2
4.
これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。
あとでまた聞きますのでよく覚えておいて下さい。
(以下の系統のいずれか1つで、選択した系列に○をつけておく)
   1:a)桜 b)猫 d)電車
   2:a)梅 b)犬 d)自動車
0,1
0,1
0,1
5.
100から7を順番に引いて下さい。
(100−7は? それからまた7を引くと? と質問する。最初の答が不正解なら打ち切る)
0,1(93)
0,1(86)
6.
私がこれから言う数字を逆から言って下さい。
  6−8−2、9−2−5−3
0,1(6-8-2)
0,1(9-2-5-3)
7.
先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみて下さい。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与えて正解できれば1点)
   a)植物 b)動物 d)乗物
0,1,2
0,1,2
0,1,2
8.
これから5つの品物をみせます。それを隠しますので何があったか言って下さい。
(時計、鍵、タバコ、パン、硬貨など必ず相互に関係のないもの)
0,1,2,3,4,5
9.
知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。
(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり約10秒待っても出ない場合にはそこで打ち切る。)
  5個までは0点、6個=1点
  7個=2点、8個=3点、9個=4点
  10個=5点
0,1,2,3,4,5
 満点30点
 カットオッフポイント 20/21(20点以下は認知症の疑いあり)

表A 老化に伴う物忘れと認知症による物忘れとの違い
老化に伴う物忘れ
認知症による物忘れ
生理的な脳の老化による 脳の疾患による
物忘れは、部分的であり、何かのきっけがあれば、思い出す 物忘れは記憶全体に及ぶ。
直前に食事したことも(短期記憶)、過去の記憶も失われる(長期記憶)
日時、場所、家族の顔を忘れるなどの見当識障害はない 見当識障害がある
物忘れしたことを自覚できる 物忘れの状態が自覚できない
物忘れの頻度は増えても、判断力は低下しない 物忘れに留まらず判断力の低下へと進行する
日常生活や社会生活に支障はない 日常生活や社会生活に支障をきたし、介助が必要となる

表B 脳血管性認知症とアルツハイマー病の違い
 
脳血管性認知症
アルツハイマー病
発症様式
比較的急激に発症、約8割に脳卒中発作の既往を認め、発作と認知症の発症との間に時間的関係が認められる 発症は除々
経過
症状の消長がみられ、一般にアルツハイマー病よりも認知症は軽い、悪化するときは段階的 進行性に増悪し、著しい認知症に至る
症状の特徴
まだら認知症で記銘力低下は目立つが、一部の知的能力は保たれる 全般的認知症
人格水準
人格水準は比較的よく保たれている 人格水準が早期から低下する
病識
晩期まで病識は保たれていることが多い 病識が早期よりなくなる
随伴症状
情動失禁(急に泣き出す、怒り出す)が50%以上にみられる 徘徊や多動をみることが多い(90%)みだりに物を集める傾向が約2/3にみられる(脳血管性認知症ではほとんどみられない)
神経症状
神経学的症候を伴うことが多い 神経学的症候はないが軽い

図@ 認知症の原因による分類(在宅)
原因による分類
(10自治体の平均−男)
原因による分類
(10自治体の平均−女)
注 10都道府県市の調査結果より集計
(北海道、東京都、神奈川県(横浜・川崎市除く)、横浜市(3地区)、川崎市、富山県、山梨県、岐阜県(3市町村)、大阪府(大阪市除く)、愛知県(名古屋市除く))
資料 大塚俊男・清水博「わが国の在宅の痴呆性老人の実態」精神衛生研究、33(45)、1986.

(つづく)

 

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