機関紙「銀杏」特集

No.70 2022年3月号


特集:「今、私が大切にしていること」part1

あなたが大切にしていることはなんですか?そんなテーマで原稿を応募したところ、たくさんの方からご応募をいただきました。今号と次号の2回にわたってご紹介します。

(取材:中根佳津子)


櫻井様
櫻井様

何より健康!そして晩酌♪ [インタビュー] 

 大切にしていることは、一にも二にも健康です。いつまでも自分の足で歩きたいと思って、特に下半身を鍛えるように心がけています。老化は足から、と言いますからね。

 コロナであまり外に出られなくても、ここには階段があるから大丈夫。1階から3階まで、毎日15往復ぐらいするのを日課にしています。最近、オリンピックにかまけてサボっていたら、3往復ぐらいでヘトヘトになってしまいました。やっぱり毎日続けることが大切ね。  

 寝る前には腕立て伏せもやっています。ちゃんと床に手をついた、本格的な腕立て伏せですよ。10~15回やるようにしています。 振り返れば、昔からよく動き回る子どもでした。学校から帰るとランドセルを放り出して外に駆け出していっちゃう。89歳になる今でも、どうもその性格は変わらないみたいですね。  体を動かして気持ちよく疲れたら、晩酌をいただきます。これもまた、私にとっては大切な楽しみです。でも、飲み過ぎないように気をつけているんですよ。お酒は部屋に置かず、事務所に預かってもらっています。毎日、缶ビールを1本、事務所で受け取って自室に持ち帰り、のんびり楽しんでいます。幼い頃、お酒が好きだった父のあぐらの中にちょこんと座って、ちょっぴりなめさせてもらったっけ――そんな昔々の思い出がふと心をよぎり、甘くあたたかい気持ちになるのです。


今のすべて [施設長・談] 

 今、いちばん大切にしていらっしゃることは? そうお尋ねすると、やさしいお顔で「すべてですよ!」とおっしゃいました。

 大正11年のお生まれで、70年にわたり医師として多くの方を救ってこられた古嶋さん。今は、ご自身を取り巻くすべてを大切にしていらっしゃる。素晴らしい一言をいただき、深く感動しました。

古嶋様



コロナ禍での家庭礼拝 [寄稿] 

 私がアプランドルに入居して間もなくから、コロナ禍のためのステイホームが始まり、今に至っています。以前の私は日曜日の教会礼拝で1週間が始まるのが習慣でした。それができなくなり、心に空虚な思いがありました。でも、教会出席が難しい人のためにと毎週週報が届くようになり、一人で礼拝をすることができてとても癒されています。家庭礼拝を大切に守って暮らすこと。それが今の私の一番大切なことです。

 禍の中にも必ず光がさすことを信じています。失ったものを数えるのではなく、変えるべきものと変えられないものとを区別する賢さを希(こいねがい)、忠実に自己管理をしながら心静かにコロナ終息を待とうと思います。

田中様



原様

義理母との思い出 [寄稿] 

 しきりに心に浮かぶのは、私と同じ年頃でアプランドルに入った夫の母のことです。義母は私とはまったく正反対。母親に「勉強のよくできる、親の言うことは何でもきく娘だった」と言わしめる人でした。「お母さんがいいと言うのなら」と、えり好みせずにお医者様と結婚。その夫がフィリピンのルソン島で戦死し、戦後は母一人子一人の日々を送ったといいます。息子の反抗期に泣き、外で働いたことは一度もありませんでした。娘を0歳から保育園に預けていた私とは大違い。

 そんな義母と週末ごとにアプランドルで夫(義母にとっては息子)の悪口を言い合っていた時間は、今も大切な、楽しい思い出のひとときです。

 



一人でお手洗いに! [インタビュー] 

 ずっと「いつまでも一人でお手洗いに行き、たとえ手づかみでもいいから自分でご飯を食べたい」と思っていました。でも以前は大きな家で一人暮らしをしていたので、お手洗いが遠くて間に合わないことがあり、紙パンツやパッドを使っていました。体のあちこちが痛くて、思うように歩けない。記憶力もだんだん衰えて、すぐに忘れちゃう。もう一人暮らしは無理だと思って、よく知っているシルバーに入居しました。

 ここはお手洗いがすぐ近くなので、紙パンツもパッドもいらなくなりました。日中10回は通うでしょうか。それがリハビリです。お食事も出てくるしお風呂にも入れてもらえる。ここでみんなに守られて、安心です。

米谷様



特集:今号の表紙スペシャル

書道家 橋本華苑先生が語る「千の風になって」

先日、アプランドルの階段踊り場に、みごとな書「千の風になって」が飾られました。書家であり、ご入居者でもある橋本華苑先生に、作品に込めた思いを伺いました。

  「千の風になって」という曲のことを知ったのは、シルバーのハンドベルの会でのことでした。施設長がこの曲を選び、みんなで歌ったんです。心に染み入ってくる歌詞をたどりながら歌っているうちに、「この詩を書いてみたい!」と強く思いました。

 調べてみたら、元の詩はアメリカの一主婦が書いたものなんですって。お母様を亡くした友人をなぐさめるために作った詩が、国境を越えて広く知られるようになったようです。日本では作家の新井満さんが翻訳し、自ら作曲もして美しい作品にしました。  大切な人を喪うのはつらいことだけれど、この詩を読むとおおらかな気持ちになります。私たちの中を、あの人が、この人が、風になって吹き抜けてゆく。今も風になって見守ってくれている。万国共通で心が落ちつく、やすらぎを感じさせてくれる詩だと思います。

 書としてのこの作品は、アプランドルの食堂で実演として書いたもの。書きながらどんどん気持ちが入っていって、出来もとても気に入っています。書き終わって、実演の見学をなさっていた皆さんと一緒に『千の風になって』を歌ったことが、楽しく心に残っています。

 今も毎日、階段の吹き抜けに飾られた作品をながめて、そのたびに嬉しい気持ちになっています。小さいころ、寝る時に腕枕をして歌ってくれた父が、今は風となってこれを口ずさみながら私の横を通り抜けていく――そんな想像をすることもあるんですよ。



年に1回、アプランドルのロビーで行われる書の実演会。毎回20名近くが見学に集まります。60~80センチの大きな紙に次々と書き上げていく様は、見事の一言。